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東京地方裁判所 昭和57年(特わ)3114号 判決 1982年12月23日

裁判所書記官

安井博

本籍

東京都台東区千束四丁目一一番地一

住居

同区千束四丁目三八番一〇号

会社役員

田村隆司

昭和六年三月一七日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一  被告人を懲役一年二月及び罰金一八〇〇万円に処する。

二  右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

三  この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、有限会社田村金属挽物製作所の代表取締役として同社を経営するかたわら、営利の目的で継続的に株式売買を行っていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右株式売買を他人名義で行う等の方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五四年分の実際総所得金額が九〇、〇〇一、八四二円、租税特別措置法第三二条に規定する分離短期譲渡所得金額が三、三九七、二四〇円であった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五五年三月一五日、東京都台東区蔵前二丁目八番一二号所在の所轄浅草税務署において、同税務署長に対し、同五四年分の総所得金額が五、二六五、〇九六円、租税特別措置法第三二条に規定する分離短期譲渡所得金額が三、三九七、二四〇円であり、これに対する所得税額が一、五一五、六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和五七年押第一七八三号の1)を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額五四、六一五、九〇〇円と右申告税額との差額五三、一〇〇、三〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ、

第二  昭和五五年分の実際総所得金額が六四、〇五四、六二七円であった(別紙(二)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五六年三月一六日、前記浅草税務署長に対し、同五五年分の総所得金額が五、八一四、一四二円であり、これに対する所得税額は既に源泉徴収された税額を控除すると六五、五一七円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の2)を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額三三、〇六〇、〇〇〇円と右還付請求額との合計額三三、一二五、五〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判事全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通

判事各事実とくに別紙(一)、(二)修正損益計算書中の公表金額及び申告所得額につき

一  押収してある所得税確定申告書二袋(昭和五七年押第一七八三号の1、2)

判事各事実とくに右各修正損益計算書中の各当期増減金額欄記載の内容につき

一  収税官史作成の調査書七通

判事各事実とくに別紙(三)、(四)税額計算書の各別表(1)について

一  収税官史作成の昭和五六年八月二六日付捜査報告書

(法令の適用)

一  罰条

判事各所為につき、いずれも行為時において昭和五六年法律第五四号による改正前の所得税法二三八条、裁判時において改正後の所得税法二三八条(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)

一  刑種の選択

各懲役刑及び罰金を併科

一  併合罪の処理

刑法四五条前段、懲役刑につき四七条本文、一〇条(犯情の重いと認める判事第一の罪の刑に法定の加重)、罰金刑につき同法四八条二項

一  労役場留置

刑法一八条

一  刑の執行猶予

刑法二五条一項(懲役刑につき)

(量刑の事情)

被告人は、妻らが経営する簡易旅館の収入によって生活していたため、自己の給料などの収入を投資信託にするなどして利殖をはかっていたが、昭和五一年ころから証券会社の外務員の勧誘を受けて株式の売買を行うようになり、やがて仕手株を中心に取引を拡大し多額の利益をあげるようになったが、本件は判示のとおり、両年分の株式売買による所得を秘匿し、総額八六〇〇万円余に上る所得税を免れたというものである。右ほ脱額は同種事案に比してもかなり高額であるうえ、被告人は前記外務員の計らいもあったが株式取引に使用する架空名義ないし第三者名義を転々とかえ、株式売買による所得全額を申告から除外し、これをそのまま証券会社に預け、新たな株式の購入資金に運用するなどしていたものであって、被告人にはもともと株式売買益を申告する意思がなかったことが明らかであり、悪質な犯行といわざるを得ない。

しかしながら、他方において、被告人は査察段階から犯行を認め、当公判廷においても再び犯行に及ばない旨誓約していること、本件につき修正申告をしたうえほぼ納税を了し、未納分についても完納方を確約していること、被告人は昭和五六年に至り所有株式が暴落し億に上る損失を被っていること、被告人には前科前歴がないことなど被告人に有利な情状も認められるので、これらの点をも総合勘案し、主文のとおり量刑した次第である(求刑懲役一年二月及び罰金二五〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

出席検察官 神宮寿雄

弁護人 宮瀬洋一(主任)、久江孝二

(裁判官 羽渕清司)

別紙(一) 修正損益計算書

田村隆司

自 昭和54年1月1日

至 昭和54年12月31日

<省略>

別紙(二)

自 昭和55年1月1日

至 昭和55年12月31日

<省略>

別表(1) 資産所得合算あん分税額計算書

54年分

<省略>

別表(2) 分離課税の短期譲渡所得の税額計算書

54年分

<省略>

別紙(三) 税額計算書

54年分

<省略>

別紙(四) 税額計算書

55年分

<省略>

別表(1) 資産所得合算あん分税額計算書

55年分

<省略>

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